大戦中、兵士たちを癒やした「ピンナップアート」とその画家たち

写真のような魅惑的な女性のアートの分野があるのをご存知でしょうか。
第一次世界大戦、そして第二次世界大戦において、多くの兵士が大切に持ち歩いたという「ピンナップ」。生きるか死ぬかという苛烈極める戦場において、彼らの心を癒やしました。
このコラムではピンナップアートの分野で著名な画家たちについて触れていきます。
 
 

ピンナップアートの分野で最高のアーティストとして名高い「アルベルト・バルガス」

ピンナップアート

ピンナップアート分野で、最高のアーティストの1人として有名なのが「アルベルト・バルガス」氏。
第二次世界大戦中におけるピンナップの象徴「エスクァイア・マガジン」誌において、彼は「バーガ・ガール」と呼ばれる一連の作品を残しています。
大戦中、戦闘機や爆撃機の機首に描かれた「ノーズアート」は、エスクァイア誌に掲載されたピンナップを参考にして制作されました。
多数のヌード絵が掲載されたエスクァイア誌の中でも、一番人気だったバーガ・ガール。
後に、これらを「プレイボーイ」誌が使用し始めることで、彼は世界的に有名となります。
またバルガスは、ハリウッドにおいて映画関係の仕事も多く手がけており、中でも1933年の「シン・オブ・ノーラ・モラン」のポスターは映画史上、最もすぐれたものの1つと言われています。

彼の作品は、水彩とエアブラシで描かれており、その腕は名人技といわれるほどのテクニックの持ち主でした。
バルガスは1982年に他界しましたが、エアブラシの達人に与えられる最高の栄誉「バルガス賞」として、今日までその名を残しています。

1998年、このバルガス賞を受賞したのが、スコット・ジェイコブスです。
 
 

バルガス賞を受賞した、ハーレー公認アーティスト「スコット・ジェイコブス」

スコットジェイコブス
ハーレー・ダビッドソンにおいて、世界初の公認アーティストとなった「スコット・ジェイコブス」氏。彼もまた、ピンナップ出身のアーティストです。

ジェイコブスは高校のアートギャラリーで働いた後、19歳の時に自分のギャラリースペースを購入します。そして25年間、アートディーラーとして活動し、成功を収めました。
1989年のクリスマス、妻からペイントセットを贈られると、写実的なスタイルの作品を制作し始めます。そして彼は作品を、自分のギャラリーに並べていきました。

1993年、友人の提案で、ハーレー・ダビッドソンへの愛情を表現した「Fat Boy(ファットボーイ)」「LIVE TO RIDE(ライブトゥライド/走るために生きる)」の2枚を制作。
彼にとって最初のハーレーの絵は、同社の理事長の目にとまり、ハーレー・ダビッドソン史上初となる、公式ライセンスアーティストに認定されます。
その後も、シボレー・コルベット部門やマリリンモンローエステート、エルビスプレスリーエンタープライズ、ギブソンギターなどからもライセンスが供与され、活動の幅を広げていきました。

ジェイコブスは、フォトリアリズムな作品を手掛けます。
まず、被写体の写真をもとに、キャンバスへ基本的な線画を描き、その上から筆を走らせていきます。そして、細かなエッジやアウトラインを保ちながら、何層も塗り重ねていくのです。
彼の美しく細やかな表現は、鉛筆の先ほどの大きさの絵筆を使い、何十時間もかけることで実現しています。

活躍を続けたジェイコブスは、1998年にバルガス賞を受賞。高い名声を得ました。
彼の作品は、ピーターセン自動車博物館、ミルウォーキー博物館などに常設されています。
 
 

ハーレーのビンテージバイク「ナックルヘッド」とジェイコブス

ナックルヘッド
もともとジェイコブスにとって、ハーレー・ダビッドソンはライフワークでした。
特に戦前のビンテージバイクに、並ならぬ情熱を注いでいました。

その内の1つ「ナックルヘッド」は、1936年〜1947年にかけて生産された、ハーレー・ダビッドソン愛好家にとっても人気が高い、美しいエンジンを持つ伝説のモデルです。
ある時ジェイコブスは、1939年製のナックルヘッド搭載モデルを所有している愛好家と交流し、熱く語り合います。ヴィヴィッドな青と黄色でリファインされたその車体は、周囲からも絶賛と注目を浴びており、彼もまた、このモデルを強く記憶していました。

オートバイは、ジェイコブスの人生の大きな部分を占めています。
彼は家族と共に毎年、モーターサイクルイベントに参加し、現地では、ブースやホテルで自分の作品を他の愛好家と共有していました。

しかし、ジェイコブスは2016年、ビンテージバイクをフィーチャーしたクロスカントリーレースにおいて、1915年製ハーレー・ダビッドソンF11で大きな事故に見舞われます。
大きく吹き飛ばされ地面に激突した彼は、右肩を激しく損傷し、右腕が全く動かなくなるほどの重傷を負ってしまいました。
手術によって人工の上腕骨に入れ替えられた彼は、再び絵を書き始めるまでに7ヵ月を要します。
さらに、当初は痛みに耐えられず、15分程度の作業しかできなかったほどで、今後の活動が危ぶまれていました。

しかし、彼の作品づくりへの情熱と、オートバイへの愛情は失われませんでした。
懸命なリハビリを経て利き腕を取り戻したジェイコブスは、2021年現在も、新しい作品を次々と生み出し、オートバイにもゆっくりと復帰しつつあります。
 
 

2021年の新作限定モデル「エスプレンディドス スコット・ジェイコブス」


スペイン語で「華麗な」「素晴らしい」という意味を持つ、エスプレンディドス。
サイドの曲線が美しい、クエルボ・イ・ソブリノスのフラッグシップモデルです。

昨年、クエルボ・イ・ソブリノスはジェイコブスとコラボレーションし、エスプレンディドスの文字盤に名画「LIVE TO RIDE」を描いた、限定モデルをリリースしました。

そして2021年、クエルボ・イ・ソブリノスは、ジェイコブスに昨年以来のコラボモデル制作を提案。彼はすぐに、あの時出会った1939年製のナックルヘッドを描きたいと思い立ちます。
そこでクエルボ・イ・ソブリノスは再び、エスプレンディドスの文字盤をキャンパスとして、彼に提供しました。

古き良きものに敬意を払う、クエルボ・イ・ソブリノスとスコット・ジェイコブス。
そして伝統的で美しいハーレー・ダビッドソン。
20世紀末、長い眠りから復活を果たしたクエルボ・イ・ソブリノスに、トラディショナルな三者が織りなす、魅惑的なタイムピースがまた1つ、誕生しました。
 
 

最後に

ピンナップが大旋風を巻き起こした1920年代~1940年代。
クエルボ・イ・ソブリノスもまた同じ頃、急速な拡大を続けていました。
しかし、1950年代後半に政治的状況の変化により、休眠状態を迎えます。
ともに激動の時代を駆け抜けてきました。
クエルボ・イ・ソブリノスは古き良きものに敬意を払い、伝統と革新の融合を表現します。

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